君がここで笑うシーンが

いや、答えなんかはいいんだ ただちょっと

続 宗教勧誘 VS パイナップルよしお

遡ること数ヶ月前ー。

しつこい宗教勧誘を撃退するためSexy Zoneの歌詞を堂々と読み上げ、教祖をパイナップルよしおと宣言したおたく、つぐみ。熱演が功を奏し、無事に宗教勧誘のおばさまがたを追い払い平穏を確保することに成功した。

ところがあれから数ヶ月たった秋。再び、戦いの火蓋が切られようとしていた。これは、Sexy Zoneに生命を救われ、中島健人を信仰するおたくの宗教勧誘との戦いの記録である。

 

 

 

再戦の兆し

その日は今年買いだめたそうめんを消費すべく、かつてましゅまろで教えていただいたおいしい食べ方を全部一気に試してみよう!という不毛な祭りを開催していた日だった。そうめんを食べ、平和に過ぎ去るはずだった夕飯の時間に、同居人は突然言い出した。

「そういえばさ、こないだお隣に宗教勧誘きててさあ。びっくりしちゃった。今時そんな勧誘あるんだね」

同居人によれば、お隣に来ていたのはおじさん二人組で、カタカナの出てくる話をしていたらしい。ふうん、と聞き流しつつ、わたしは数ヶ月前にパイナップルよしおを自分の教祖だと決めた日のことを思い出していた。

 

あれは本当に壮絶な戦いだった。かいつまんで説明するが、わたしは宗教勧誘の前で堂々とSexy Zoneの曲を朗読したのだ。

「神はおっしゃいます。揺らいだ目に映る 君の未来に飛び込むよと。神はいいます。過去は全てモノクロさ 今目の前の僕を見てと。」

とつつがなく読み上げた。その結果宗教勧誘のおばさまはなぜかそれに感動して、「勉強します」と言って帰っていったのだ。

あれからluv manifestoを聴くたびわたしはパイナップルよしおに信仰を誓いなおしているのだけれど、正直あんな思いはもうしたくなかった。体力を使うんだもの、宗教勧誘との争いは。

 

「うちに来たらどうする?」と同居人は言う。わたしは前回の戦いをかいつまんで話した。同居人は笑いながら、「じゃあ次は夏のハイドレンジアでも読み上げようか」とふざけたことを言う。お前な、宗教勧誘との戦いは大変なんだぞ。その日はそれから夏のハイドレンジアの出だしをいかに中島健人大先生のようにドラマチックに歌うか選手権をはじめてしまって、宗教勧誘のことなど忘れてしまっていた。

 

 

ところが、そうめん大会から数日後。事件は起きる。

 

 

帰ってきた教祖、よしお

その日は彼女はキレイだったの最終回の翌日で、わたしは朝からよかったなあよかったなあとそればかりを繰り返していた。要するに浮かれていたのだ。

事件が起きたのは夕方。わたしが夕食の支度をするべくのそのそ立ち上がった時である。その日はたまたま宅配便が夕方に来る日で、だからわたしはなんの躊躇いもなくチャイムがなってすぐに玄関へ出た。そうしたら、いたのだ。

 

「あの、その節はどうもお世話になりました」

見知らぬおばさまは言う。だけどわたしはおばさまが誰だかすっかりわからない。

「…どちらさまですか?」

「○○<〒|の者です。あれから貴方に教えていただいた神様を調べたのですがパイナップルよしおという神様が見つからなくて…」

 

さあっと血の気が引いた。あの時のおばさまだ…!

あの日、わたしのどうしようもない演技になぜか感動していたおばさまだ…!

 

「あんなにも素晴らしい教えなのに、パイナップルよしお様がこんなに隠されているのはなぜなのでしょうか。広辞苑にも名前がありませんでした」

当たり前だ。パイナップルよしおが広辞苑にのってたまるか!!パイナップルよしおはなあ、Sexy Zoneなんじゃもんじゃゲームの時につけた架空の名前だからだよ!!

「「なんてな」笑い飛ばすお前の背中という斬新な教えはどこで読めますか?」

それはあの、Sing along songというめちゃくちゃかっこいい佐藤勝利くんと菊池風磨くんのユニット曲の歌詞です…Sexy Zoneの歌詞カードで読めます…

 

そうだった、このおばさま、なぜかわたしの読み上げをメモっていた。本当に勉強してきたんだ。まずいことになってしまった。

 

「…とりあえず、ご説明しますのでしばらくお待ちいただけますか?」

扉を閉める頃には吐きそうになっていた。まさかあの時わたしが咄嗟にとった、追い払いたい気持ちしかなかった行動で真剣に勉強されるとは思わなかったのだ。神の名をパイナップルよしおと答えたせいで大変なことになってしまった。

 

助けを求めダッシュでリビングに駆け込めば、一部始終を聞いていたらしい同居人がゲラゲラと笑い転げている。おいこら、はっ倒すぞ。

「聞いてた?どうしよう、」

「落ち着いて思い出して。こないだ健人言ってたじゃん、俺は神だって。だから嘘はついてない」

いやわたしの神はパイナップルよしおなんだが…と言い返せば、パイナップルよしおの生みの親は健人なんだから神は健人だろ、と同居人は言う。確かにそうだ。けんとくんは言ってた。「ちょっとみんなごめんなんだけど、スモーク焚かれた瞬間におれ自分のことを神々しい神だと思っちゃったのね」って。じゃあ中島健人は神様だ。

 

「でもどうやって追い払う?たぶんね、あの人律儀に待ってるよ。前回も待ってた」

「とりあえず夏のハイドレンジア朗読しよう。あと教えはすべて口述筆記だから書物は受け付けていませんって言うんだ。それから思いつく健人の発言をいかにも神っぽく言う」

「それでも帰らなかったら?」

「…壁ドンする?」

「なんで、?」

「わかんない、なんかやりたがってなかった?」

 

確かにわたしは前の晩のかのきれの愛ちゃんの壁ドンに憧れていたが、それと宗教勧誘に何の関係があるのだろうか。冷静な今はそう思うのだけど、あの時は慌てていてそれどころではなかった。

 

 

神はドゥバイに降臨す

「私たちの神様は口述筆記以外望んでおらず、紙媒体は基本的にありません。また、基本的にそのお姿を信者以外に見せることはありません」

「なるほど…」

 

前回も思ったのだけれど、なんで宗教勧誘の人ってこんな真剣に話を聞いてくれちゃうんだろう。真面目に生きすぎると宗教にハマるのか?

 

「また、神は非常に嫉妬深く、わたしたちは別の教えを被ることはできません」

「心狭いですね…うちの宗派ならそんなことな」

おばさまはなぜか勝機を見出したらしく、おばさまの信仰するなんたらかんたらの説明をはじめた。そんなもん知らんがな、の気持ちでわたしはリビングから持参した今年のツアーのパンフレットを開く。

 

「あなたはどうやらよしおさまの教えがまだ届いていないようなので、最新のおしえを朗読させていただきます」

 

すう、っと一度息を吸った。さあ朗読するぞ、の気持ちでこっそり挟んでた歌詞カードを開く。さあ、いざ、

 

 

 

 

 

 

「ハイドレンジ〜ア こ〜ぼれ〜る なみださえ〜もき〜れいだ あめのま〜ちに さく〜はな ヒロ〜インなんだ きぃみは〜」

 

 

 

 

 

 

…やっちまった。普通に歌ってしまった。

数日前のいかに上手に中島健人大先生っぽくかっこよく歌えるか選手権の成果をここで出してどうする…!

 

さすがにこれはおばさまも怒る、と思えばなぜか真剣に目を瞑って聴いていた。だからその真面目さはどこからくるんだ…

仕方がないので、全部歌った。普通に歌いあげてしまった。おばさまは「ほお」と言う。沈黙ののち、おばさまはまた言う。素晴らしいですね。

 

「しかしながら、数年後には宇宙から隕石が…」

余儀はない。おばさまは揺るがない。学んだ上でなおわたしをパイナップルよしおから引き剥がそうとしているのだ。

なんだかだんだん悔しくなってきた。よく考えたら人の教えを聴きにきて自分の隕石だワクチンだの話するのめちゃくちゃ図々しくないか?なんてノーセクシーなやつなんだ。わたしからパイナップルよしおを奪うな!

 

「隕石について、我々の神はこうおっしゃっています」

腹が立ってきたので、わたしはまた読み上げることにした。頭の中で検索をかける。神っぽいやつ。神っぽいやつ。楽園、ナンバーワン…

 

 

 

そうだ、ドゥバイがいるじゃないか。

 

 

 

「神はおっしゃいます。ナンバーワン! あふれている
夢の国 僕の楽園と。神は歌います。ほら Clap your hands ここに来ればワクワクが 止まらないと。」

おばさまは動かない。わたしは怒鳴った。

「神が手を叩けって言ってんだから手を叩け!」

おばさんは怯えながら手を叩く。あんなに大きな声を出したのは久しぶりだった気がする。

わたしは必死だった。必死にバィバィDuバィ~See you again~を思い出し、なんとかさも神の言葉っぽく読み上げた。おばさんはわたしが手を叩け!と怒鳴って言うたびおずおず手を叩く。この時ばかりはポリスはスーパーカーでよかった。

 

「神は最後に我々におっしゃいます。サンキュー シュクラン I love you アナウヒッブキグッバイ。バィバィDuバィ~See you again~と」

 

わたしはおばさまに問う。これでもまだわかりませんか?と。おばさまは何も言わない。わたしは、おばさまにSexy Zoneの話をすることにした。

 

「パイナップルよしお様はある時、5人の少年たちを集められました。少年たちは突然家族になったことに戸惑いながらも、よしお様から頼まれた薔薇の栽培をはじめます。」

 

人は必死になると瞬時に物語を紡げるのだなと他人事のように思った。同居人によればなんかめちゃくちゃいい話っぽく聞こえていたらしい。そりゃそうだ、Sexy Zoneの話をする時人は涙を流すのだ。

 

「最初、栽培はうまくいきませんでした。家族がバラバラになることもありました。それでもなお、彼らは彼ららしく生きるために、薔薇の栽培を続けます。他人から何を言われようと、何を浴びせられようと、彼らは必死に栽培を続けました。よしお様はおっしゃっいます。人と比べなくていい。羨まなくていい。彼らだけの道を、彼らのペースで生きていけばよい、と。勝ち負けではない。何者にもならなくていい。君は君だよ、そうでしょ」

 

 

 

正直パンフレットをみながらだったのでわたしが泣きそうだった。まだなにかあるか、という意を込めおばさまを見つめれば、具体的な教義はなにかあるか、という。確かに感動したが、普段は何をしているのかと。わたしは考えた。思いつく限りの、Sexy Zoneに教えてもらったことをはなした。

 

「神はいいます。壁と尻がフェイストゥーフェイス する体制を取りなさいと」

「神はいいます。アンコールで大事な人にもらった眼鏡をかけなさいと」

「神はいいます。トンビとは戦うなと」

「神はいいます。ご飯は土鍋で炊きなさいと」

「神はいいます。膝枕をするなと」

 

膝枕はわたしの怨念です。しかしなお懲りないおばさまは、クリスマスのような日はあるのかと聞く。わたしは反射で答えた。「8月25日です。」

 

「ほう…」

 

このおばさま、ほうしか言わない。なんの日ですか?と聞かれたので、流れ星の日と答えた。それから、11月16日は薔薇祭の日だとも言った。

 

おばさまは考え込む。まだ今日は帰らないらしい。これ以上宇宙の話は聞きたくない!!そういえば、とわたしは思い出した。壁ドン、まだしてない。壁ドンしたら引いて帰ってくれるかも…!

 

「まだパイナップルよしお様を信じていらっしゃらないようなので、これより我々の究極奥義をお見せいたします」

 

わたしは同居人を呼んだ。うやうやしく現れた同居人は、いつかわたしが買った造花の薔薇を持っていた。どこから見つけたのよそれ。

 

わたしは同居人に、壁にもたれるよう指示した。薔薇を持ち、わたしは壁ドンの態勢に入る。愛ちゃんを思い出せ。愛ちゃんみたいにかっこよくやるんだ。掛け声もつけるぞ、ラブマニの力を借りよう。せーの、

 

 

「Lu lu luving you!!!!!」

 

 

バチン!!!と音がした。いけたか…?と思って目の前の同居人の顔を見る。今にも笑い出しそうな同居人。ちょっとだけあかくなっている頬。まさか、

 

 

わたし、ビンタをしたのでは。

 

 

恐る恐るおばさまの方を見た。めちゃくちゃ引いてる。それはそれはもう引いてる。怖がってる。

 

「パイナップルよしお様の教えは、以上です」

 

静寂が流れた。おばさまは怯えた顔をして帰っていく。我々は明日からドバイへ行きますゆえ、といえば、おばさまはパイナップルよしお様が怖いのでもう二度と来ませんと言った。よしお様を侮り申し訳なかったと謝罪もされた。そりゃそうだ、二度とパイナップルよしおを侮るな!

 

おばさまが帰ったあと、同居人はもはやあれは張り手だったと言って笑った。中島健人さんの大人の壁ドンにはまだまだ我々は及ばないらしい。修行が足らん…

 

ちなみにそれから数日後、同居人が見たおじさま2人がうちに来た。どうやらおばさまとは別団体だったらしい。パイナップルよしおしか興味がないので…と言ったら怪訝な顔をしてすぐにいなくなってしまった。ああパイナップルよしお、やっぱり君しか勝たんのだ。

 

やっぱり信じるものはパイナップルよしおだ。パイナップルよしおを信じるものは救われる。貴方も清く正しいパイナップルよしおとの生活を始めてみませんか。汝、パイナップルよしおを信じよ!