君がここで笑うシーンが

いや、答えなんかはいいんだ ただちょっと

全部稔の、松村北斗のせいだ

最初に出てきた言葉は、馬鹿野郎、だった。涙よりも衝撃が強くて、だけど泣いているんだと気付いたのは華丸さんの朝ドラ受けが全然聞こえなくてテレビの音量をあげた時だった。あろうことか、自分の鼻を啜りしゃくりあげる音でテレビと隔離されていたのである。

 

稔が死んだ。稔が、戦死してしまった。

 

思えば、とにかく大変な1週間だった。

 

 

日曜日には「青天を衝け」でお千代ちゃんを見送った。コレラで突然亡くなってしまった。なぜとか、どうしてとか、そんなことを考える余裕がないまま亡くなってしまった。「惚れ直した、俺は千代がいなきゃダメだ」と栄一が自覚した次の週のことであった。栄一はいろんな人をいろんな形で見送ってきたけれど、「おいてかないで」って言ったのは千代ちゃんだけなのだ。栄一の中にはずっと「お千代は褒めてくれる」「お千代は認めてくれる」って確かな希望があって、だからこそ自由に生きられたのだと思うとあまりにあまりにである。あまりにも涙が止まらなくて、生まれてはじめて泣きすぎて吐くということをした。千代ちゃん、さいごのさいごまで綺麗だったな……それが余計に辛かった。

 

この千代ちゃんの死があまりにも辛く、わたしは今週カムカムエヴリバディを見るのをやめていた。お千代ちゃんを見送った翌日がたまたま通院だったのだけれど、医者にやつれたと言われるくらいには泣いたのだ。しかもそのまま場所の悪いポリープが見つかって顔色の悪さやその他色々もあいまって入院してしまった。 「今日点滴して帰るでもいいけどあなた最近体重落ちてるしそれだけやつれた顔してたらちょっと入院かなあ…」と医者は言っていた。やつれた顔は昨夜の泣きすぎでは?とは状況的にも声的にも言えず黙るしかなかった。ごめんなさい、ポリープ云々は預かり知らぬところですが、やつれた顔は間違いなく前夜の青天を衝けです。

入院中はとにかく戦争と病が出てくるものを避け、ほのぼのアニメを見たり、Sexy Zone をみて過ごしていた。勝利くんの高級レストランで無邪気に過ごすラジオほど滋養になったものはなかった。

 

心境に変化が起きたのは昨日のことで、ラジオで流れてきたこの曲に背中を押されてもう一度落ち着いて青天を見た。

 

二度目の「栄一と千代」には気付きがたくさんあった。まず、栄一の無言の慟哭。初見の時はずっと栄一の声がしたような気がしていた。それから、千代ちゃんが「生きて」という直前、栄一の「お前がいなくては俺は生きていけねぇ。もう何もいらねぇ」に対しての顔。わたしがこの10ヶ月確かに見てきた強くて優しい大好きな千代ちゃんだった……千代ちゃんはずっとずっと栄一に一途だったんだ。

千代ちゃんは自分の道を生きる栄一が大好きで、大切で、だからこそ「生きて」で、ただ生きるんじゃなくて「必ず、あなたの道を」なんだな……千代ちゃん……千代ちゃんは自分無しでも栄一に栄一らしく生きて欲しかったんだな……それが一番大好きな姿だから……たまんねえな……

栄一はどこにいても何をしていたとしてもずっと千代ちゃんを探していて、だからこそあっちこっちで浮気をしまくったんだろうなと妙な納得もした。「千代がいなきゃ生きていけない」から。代わりを求めて彷徨うなんてかわいそうなやつなんだ、栄一ってやつは……

栄一が千代ちゃんの好きな栄一でいられるか見届けなくてはならないと決意した。

 

そうしたらふと、安子が心配で心配でたまらなくなったのだ。ああ安子。わたしのかわいいかわいい安子。無事だろうか。元気だろうか。

大急ぎでそのまま溜めていたカムカムを見た。ありがとうNHKプラス。病室だろうがなんだろうがどこでも安子にあえるの本当にありがたい。

ああ安子、となんど泣いただろう。ああ安子…!!戦争が本当に憎い。なにもかも安子から奪っていく。なんと、なんと憎く愚かなものであろうか。

 

せめて、と心から願った。せめて、せめて稔だけは。安子の灯火だけは明日帰ってきてほしい。きっと明日の安子は、ひなたの道を歩ける。

 

そう信じて迎えた、久しぶりの8時。

結末はひどく悔しく悲しいものだった。

 

先週は安子が嫁に出て泣いたのに。ああ、なんてことだろうか。たった5日、たった75分で安子の宝物がなにもかも奪われてしまった。せめて父がいたら、せめて母が、せめておばあちゃんが、そんなせめてすらもかなわない。なんと、なんと切なく儚く、痛いのだろうか。安子がここまで築いてきた、一生懸命重ねてきた幸せがたった75分で全部壊れてしまった……

 

稔、お前が安子を、一番大事な安子をおいていくな……お前が安子を……1人にするな……

お前さんたちが「戦争ありきの結婚だった」と気付いてしまったらおしまいなんだよ。そんなこと気付く必要これっぽっちもなかったんだよ。なあ、聞いているか稔、なあ!

 

NHKは私をどうしたいんだろう。まじめになんで千代と稔を被せた、再起不能な人間を量産させて国家転覆でもしたいのかNHKは。なにがしたい。わたしは未だにofficial髭男dismのアポトーシスを聴いて千代を想い涙を流す夜があるというのに。なぜ被せてきたんだ。聞いているかNHK

 

それにしたってふざけんなよ稔、お前だから、お前だからわたしは安子を託したんだぞ、なあ稔、お前が安子をおいていくな、なあ、稔、かえってこいよ……安子を1人にするなよ……お前が安子を泣かせるなよ……

安子はなあ、「あなたと」ひなたの道を歩きたいと言ったんだ……わたしみたいな名もなきそこらのバカなモブじゃだめなんだよ、「稔と」ひなたの道を歩きたいと言ったんだぞ!!!!!お前がいなきゃあんなにも暗い道なんだぞ!稔!!!!!なあ稔!!!!!聞いているのか!

 

勇ちゃんも辛かろう…兄を亡くし、しかもその知らせの反応を通していかに安子が兄を大切にしていたかを改めて突きつけられてしまった。ああ勇ちゃん、君だけでも帰ってきてくれてよかった。よかった……

 

正直今まで辛い朝ドラは最終回で推しが生死解らず目を覚まさないあの苦しみを超えるものなどないと思っていたがもうそんなことを言ってられなくなってきた。わかっている。わかっている、朝ドラはなまやさしいもんじゃない。戦争に救いなどない。わかっていたが、だけども、せめて稔は、稔だけは、安子から奪わないでほしかった。安子にもう一度、一番愛しい人とひなたの道を歩かせてあげたかった。なぜそれすらも叶わないのだ……

 

なによりも、安子が稔からされた最初で最後の意地悪がこれなのが本当に苦しい。稔がこれまで安子にしてきた小さないじわるは全部全部幸せで、あったかくて、優しかった。でも今日の「意地悪せんといて」は、安子にとってはじめての幸せじゃない、本当の意地悪なんだ。安子……ああ安子、稔の存在が安子の太陽だったのに。ああ安子!!!!!

 

こんなクソモブはテレビの向こうで安子の幸せを祈ることしかできない。なぜなら安子の涙をハンカチで拭えるのは稔だけだからだ。それは稔にだけ許された、優しい優しい特権だからだ。他人が涙を拭っても安子は救われない。稔だから、安子は救われたのだ……

 

だいたい、稔、お前は今まで安子の願いをすべて叶えてきただろう…?お手紙も、ひなたの道も、結婚も、全部全部叶えてきたじゃないか。それを、どうして、無事に帰ってきてねという願い事は叶えられないんだ、なあ稔、それが一番大事な願いだって聡明なお前さんならわかるだろ、稔…………菅波のトンチンカンを今思えば救いだったなあなどと思わせるんじゃないよ…………菅波はあれだからいいんだよ……なんで今になって菅波の株が上がってんだ…?

 

これはめちゃくちゃな八つ当たりですが、なんかそれもこれも安子が惚れるくらい立派で慎ましく爽やかで凛々しい稔を松村北斗にやらせたNHKが全部悪いんじゃないのか?というめちゃくちゃな思考になっています。やっぱり悪いのはNHKでは?松村北斗を選んだNHK、大罪では?だって稔があんな好青年じゃなかったらこんなことにはなってなくない?はあ?なんなん?

 

安子を鮮やかに奪ったあげく、くそう、悔しい。ああ悔しい!!!!!生きてかえってこいよ馬鹿野郎!!!お前ならフラグ破壊くらいできただろうがよ!!!!!!!

 

それもこれもぜーんぶ松村北斗さんが立派に稔をやり遂げたからですよ!!ばーか!!!!!