突然だが、うちの母親は無駄にオタク修羅場の場数が多い。好きな男がアイドルをやめオートレーサーになり、自担の相方とも言える男の結婚発表の場に立ち会い、自担の所属するグループのメンバーが捕まり、時を経てまた捕まり、週刊誌の常連になり、そして解散した。その他、推しの離婚、離婚による裁判、などなど、生死の境以外のことは大体経験している。楽しいことも苦しいことも、一通り。
そんな母の人生の中に深く刻まれていることのひとつは、自担の相方とも言える男の結婚発表の場に立ち会ったことである。母は酔うと未だにこの話を昨日のことのように語る。あの日の木村拓哉は憎たらしいほどにかっこよかった。あの日の中居正広は正真正銘SMAPのリーダーだった、エトセトラエトセトラ。深く刻まれすぎて、時々完全再現できてしまうほどに。
そして、事件は起きたのだ。
2022年8月13日、横浜アリーナ。
あれ、?と思ったら、母が膝から崩れ落ちていた。
自分の母親があんな風に、まるでコントみたいになっている姿をはじめてみた。
すべての発端は、菊池風磨のこの一言である。
「俺………結婚します」
あの言葉に、瞬時に木村拓哉を連想できたのはたぶん、あの場に中島健人とうちの母親しかいなかった。わたしはまーた菊池風磨やってんな、くらいの気持ちでいたし、隣のおたくは菊池、?と慌てて口に出していたけれど、母は違った。がたん、と音を立てて、膝から崩れ落ちていた。
わたしがきょとんと母を見ていると、中島健人さんが言う。
「お前何言ってんだよ(笑)
それSMAPのOP前の木村さんな。」
母と目があった。見たことのない速度で首を動かし手を叩いて泣きながら笑っているので全てを察する。
ふまけんと通じ合ってしまったのだ。
2人のやりとりは続く。
「でもお前YouTubeの見すぎ」
「TikTokです」
「今後そういう発表もあるかもしれない。 in the future.」
「思ってたよりわかなかった。もうちょっと沸くと思った。あーそうなんだくらいの感じで」
ふうまくんは「思ってたよりわかなかった」なんて言っていたけれど全力で訂正したい。いましたよ、その発言に大はしゃぎしていた人が。貴方が「結婚します」と口にした瞬間、すべてを理解した人間が。いました。うちの母親です。
母はライブが終わった後こう言った。
「あの瞬間一瞬で2000年に戻ったわ」
今年のSexy Zoneのアルバムのタイトルは「ザ・ハイライト」。リード曲にもこうある。「振り返るハイライト 君とのモーメント」。まじもんの「振り返るハイライト」を、ライブのはじまりでうちの母はやってのけてしまったのだ。たぶん誰よりも正しい意味で「人生のハイライト」を感じてしまったのである。
そしてまた菊池風磨は見事に母の心を掴んでしまった。
「俺今度結婚します」と、もう一度口にしたふうまくんは木村拓哉の真似をしたのである。母曰く「あれはずるい」とのことで、ひいひい、それはもう息も絶え絶えに笑っていた。もうぐちゃぐちゃになっていたのだ。娘が若干引くほどに。
ライブの間、母はずっと楽しそうだった。なんとなくふうまくんのうちわを渡しておいてよかったとも思う。久々に、なんというか「少女の顔をした」母を見た。たぶん、純粋にアイドルを追いかけていた頃に戻っていたんじゃなかろうか。きらきらな笑顔で、Sexy Zoneをみていた。
終演後。Sexy Zoneの世界観をめいいっぱい満喫し、清々しい顔をした母はこう言った。
「ザ・ハイライト、本気でしちゃった。本気で振り返るハイライトだったわ…」
どうか、今日のライブが、母の人生を自然となぞる形になった今日が、いつまでも母の人生のハイライトになればいいなあと思う。「愛すべき love day」のひとつに、今日が加われば、それ以上に嬉しいことはない。
「振り返るハイライト 君とのモーメント」
母のハイライトのどこかにSexy Zoneがいるなら、娘としては万々歳なのだ。