君がここで笑うシーンが

いや、答えなんかはいいんだ ただちょっと

あなたの名脇役になりたい

はじめてあの曲を聴いた時から、夢見ていたことがある。

 

 

 

その曲を歌うその人の背中を見つめていたい。

その曲を歌うあなたの、名脇役になりたい。

 

 

 

奇跡が起きているようだと、イントロが流れはじめた時に思った。イントロで条件反射で涙が出てくる。わたしが一番好きな曲の、あの音。

 

あの夏の日からずっと、わたしは中島健人さんの背中が好きだった。大きくて、優しい背中が、どうしようもなく好きだった。

いつか、ライブでずっと背中を見つめていられる席にいたいなあと思っていた。あの大好きな背中をずっと見つめていたい。意志の宿った、後光のさす背中を、ただただ見つめていられる席にいたいなあと、ぼんやり夢に見ていた。

 

夢が叶ったと気付いたのは、デジチケを発券した時だ。とんでもない席だった。忍んでいたいわたしが、とんでもない席を引いてしまった。始まる前にも泣き、オープニングで泣き、ああ人はこんなにも自然に、幸福で涙を流せるんだと思った。

ありがたいことに本当に本当に、背中を見つめていられる席だった。けんとくんが動くたびに、背中を見つめていた。好きな人が誰かを幸せにする瞬間を見ているのが本当に幸せだった。生きていてよかったなあと思った。何回か頭の中で辞世の句を詠んだ。

 

朝霧のおほに相見し人ゆえに
命死ぬべく恋ひ渡るかも 

 

あなたが誰かを幸せにしている姿が、わたしは本当に好きなのだ。魔法をかけていくその指先を、その表情を、ずっとずっと焼き付けていた。これ以上の幸せ、わたしは知らない。どうしようもなく楽しくて、愛しくて、苦しくて。前の日にわたしなんぞがけんとくんにあえないと泣いていたのが嘘みたいだった。声がでなくて苦しかったこととか、仕事のこととか、ついていけないいろんなこととか、これまでのすべてがほろほろと溶けていくような気がした。

 

時が止まったのは、大好きなあのイントロが聴こえてきた時だ。ツアーが始まってから、唯一セトリに入っているかを何度も確かめた曲。絶対に泣いてしまうからと、事前に覚悟を決めていた曲。

名脇役が流れてきた時、世界で一番好きな人はちょうど対角線上の後ろ側にいた。

 

わたしのどうしようもない夢が、叶った瞬間だった。

 

何度この曲に救ってもらっただろう。何度この曲で泣いただろう。耳かき、トートバッグ、えとせとら、えとせとら。しんどかったこと。足の傷のこと。あの日、はじめてKTTを見た日のときめき。いろんな記憶が蘇っては、涙の向こうに消えていく。

ずっと、貴方の名脇役になりたかった。ずっとずっと、この曲を歌う貴方の背中を見つめていたいと願ってた。たくさんの人を幸せにする背中を、ただただ見つめていたかった。

イントロでもう顔を上げられなくて、それでもあの背中を焼き付けたくて。夢であれ、現実であれと願いながら、大好きな背中を見つめていた。

けんとくんにはきっと素敵な人がいる、あらわれると信じていて、きっとそれは私じゃないから。いつかを貴方がつかんだその時、笑っていたいから。だからあなたの名脇役でありたいとずっと願ってきたわたしの夢が、叶ってしまった。

綺麗だった。光に照らされるあの背中は、どうしようもなく綺麗だった。わたしの好きな人は、今日も誰かを幸せにしている。それが愛しくて、切なくて、大好きで。大好きな背中をずっと見れたの、本当に幸せで、ああわたしずっとこの人が好きだなって、そうかみしめて。名脇役名脇役の場所で聴けて、本当に良かった。

 

 

あの優しいメロディが会場を包んだ瞬間、

わたしは確かにけんとくんの名脇役だった。

それ以上の幸せを、わたしは知らない。

もうあとすこし、またあした。

チグハグなタイトルをつけたのは、今の私の心がとてもチグハグだからだ。

 

明日、わたしは、好きな人にあいにいく。

 

本当は、去年もあえるはずだった。

去年のことはあんまり覚えていない。いや、忘れる努力をしたが正しいのだろう。チケットを返金するときのあの痛み、何も知らない人からの残念だったねって絶対残念に思ってないその言葉。色々なことを受け止めるにはあまりにも余裕がなくて、ぐしゃぐしゃにして投げ捨てた。それでいいと思っていたし、そうしなきゃ生きていけなかった。私にとってコロナとの日々は、そういうものだったのだ。必死に必死に言い聞かせて、忘れるためのもの。画面の向こうの、消したら消えてしまう背中に、焦燥感を感じないための、逃げという名前の防御。向き合うべきだったのかもしれない。だけど、最初の緊急事態宣言の最中に失業したわたしには、向き合える強さがもう何も残っていなかった。

 

さて、あれから一年。やっと再就職したと思ったら今度は部署の廃止が決まって昨年とは違う意味で修羅場だけど。器用な人に憧れては失敗してるから、相変わらず器用じゃないけど。正直仕事でいっぱいいっぱいだし、美容院に行ったけど爪もぼろぼろだし顔や体型聞かないでくださいってプラカード出したいし、全部に自信ないけど。それでもコンサートがあると思うとちょっとだけ気を遣う余裕が出てくる。かわいいを諦めなくてもいいんだなって、泣きたくなる。

明日、わたしはリベンジを果たしに行くんだ。明日だけは、かわいい自分を許してあげられる。明日だけは、魔法に酔いしれていてもいい。明日だけ、わたしはシンデレラになれる。

明日だけは、わたしは自由になれるんだ。

空を飛んで、手を伸ばして、好きな人の背中を見つめにいく。それだけで、こんなにも世界は優しい。たった一公演、されど一公演。わたしにとって、最初で最後の今回のツアー。

大変今さらながらわたしはSexy Zone の、中島健人さんのおたくだ。そしてわたしは、けんとくんの背中が好きだった。喜びと傷と、それを包み込む眩しい強さが宿った背中が、本当に好きだ。

 

この一年、何度あなたに救ってもらっただろう。

何度貴方達の言葉に許してもらってきただろう。

何度も何度も、繋ぎ止めてくれた。

 

何を伝えるのがいいんだろう。あまりに実感がなくて、わざと他の趣味に逃げたこともあった。結局それ聴いて思い出すひとは1人だから本末転倒なんだけれど。

それから、うちわ、どうしよう。耳かきさせて、長生きして、よく寝て、健康でいてね、それから、それから……なにせ一年拝めていない。伝えたい言葉が多すぎる。

ファンサうちわ?それを作る勇気があったらこんなことになってないのだ……目の前で見るだけで膝の力が抜けるのにファンサなんていただけた日には砂になってしまう。でも作った方がいいだろうか…耳かきさせてしか浮かばないんだ……この一年耳かきにやきもちをやき続けてきたから……こういうところがぽんこつぽんこつたる所以である。

 

耳かきは一旦野原に投げといて、とにかく。

少しでもありがとうが届きますように。

少しでも、だいすきと伝えられますように。

 

貴方が、貴方達の明日が、

優しいものでありますように。

 

届くように、祈るように、手を叩くんだ。

 

さあて。遅刻しないように目を閉じよう。貴方が優しく笑うシーンを、大好きな背中を、思い浮かべながら。

中島健人くんが結婚を連れてきた

「はてぶろとかTwitterに書いてくれてもいいんだよ。そうでもしなきゃ信じてくれないでしょ」とかふざけたことも朝から言われたから、ちゃんと書き残しておこうと思う。なにせわたしは人より記憶する力があまりにも低い。本当は先に書かなきゃいけないものが仕事もこちらもたまっているけど許してほしい。これを残さなきゃわたしは明日からまともに働けそうにない。

たまたま今日は休みだし、いつか忘れてしまったら困るから、書き残しておく。

 

 

「頼むから、浮気しないで結婚してえ〜!!!」

「今更だけど結婚前提に付き合ってほしいんだ」

「結婚しよう」

何を言われているかわからなくて、私が返事をする前にその電話は切れた。付き合って3年目の彼氏から来た、真夜中の電話。我妻善逸並みに汚い高音と号泣音声を、わたしは聞いた。

 

 

生まれてはじめて、結婚しようと言われた。それも大泣きしながら、半ば絶叫みたいな形で。

 

「……もしかしてこれは、プロポーズなのか?」

そう気付くまで、随分時間がかかった気がする。

 

事件の発端は、ザ・テレビジョンだ。私の信望するアイドル中島健人大先生が、ウェディング風グラビアを撮ることになったのである。

告知を受けてから1週間、わたしは心底それを楽しみにしていた。あの中島健人大先生のウェディングだ。グラビアはともかくインタビューが絶対いいことは読まなくてもわかる。わたしの人生の責務は中島健人大先生の言葉を後世に残すことだ。早くけんとくんの言葉を浴びせろ!!!……あ、まって、やっぱりやだ、振られる準備できてない。親友の結婚式で新郎側にいるけんとくん見て泣きたいけどまだ無理、等々、好き勝手に喜び悲しみながら本当に楽しみにしていた。

 

そうして迎えた5月19日。わたしはハイボールを飲みながらジョンの解禁を待った。読んだ。号泣した。

全部よかった。写真も、テキストも、全部。

脳内にらいおんハートとpretenderと名脇役スペシャルメドレーが賛美歌のように流れていた。ああ神様、わたし中島健人くんと結婚しました。ああ神様、たった今親友と中島健人くんが結婚するところを見届けてきました。ああ神様、神様……!!!

何がいいって結婚証明書に「everyone」と残すその心意気!!生きとし生けるもの全員中島健人と結婚できてしまうのだ。バンザイ!!!それから、自分自身が引き立て役でいいと言いながら肌は見たいと正直なところ。好きだ!あとわたしはあなたの肩幅が好きだよ!大好きだ!!あと白い手袋の突然のコント!好きだ!結婚して!あ、もうしてた!!

とまあとにかくお祭り騒ぎだったのだ。深夜に泣きながら中島健人さんを褒め称えていた。

あ、まだ好きなとこあった。「親に紹介しやすい面白い男子でしょ!(笑)」なとこ。面白いと紹介しやすいがイコールだと本気で思ってるとこ。すんごく好き。大好き。

 

とにかくもう〜それはそれは夢見心地で、お父さんお母さん今までありがとう、米農家継げなくてごめんね…………って血迷ったツイートをしだすくらいには浮かれていた。中島健人最高音頭を踊っていた。

 

そして泣いて笑いながら思うのだ。こりゃ〜自分は当分先だなあと。だって今けんとくんと結婚しちゃったし。一応、その、世間でいう彼氏のような人はいるけど、お互いどう考えても今はご時世的にも家庭ののっぴきならない事情的にも無理だし。あはは〜けんとくんむこ投げしよ〜!!と、そんな感じで一瞬見えた気持ちに蓋をするように、見ないふりをするように、わたしはずっとジョンを読みながら泣いていた。恐ろしいことに涙はずっと止まらなかった。

 

ふと、今遠距離のあやつは何をしているかなという気持ちになって、わたしはLINEを開いた。どうせ今日もあえないだろうな。返事があるはずなかろう。そう思って、とても軽い気持ちでわたしはこう送った。

 

「これから結婚してくるわ」

 

もうけんとくんとしてるんだけどね〜!!さあ寝よ〜!!!と満足したわたしは健やかに就寝しようとした。あしたは入れ替えでおやすみだ。なにしよっかなあ〜、とうきうきで。

 

ところがスマホがうるさい。ずっとうるさい。夜中にいきなりずっとうるさい。

 

腹が立った。誰だ。わたしは今けんとくんと結婚したんだぞ!!!!!

 

「うるさ「浮気しないで結婚してくれええええ」」

 

…………?

とんでもない絶叫が聞こえて、わたしは思わずスマホを落とした。うるさい。めちゃくちゃうるさい。すごい泣いてる。普段滅多に泣かない、怒らない、心がないと言われた男が、泣いている。

 

電話口の向こうの男はこう捲し立てた。

「結婚しよう!!しよう!!!」

「今更だけど結婚を前提に付き合ってくれ、またちゃんとあってプロポーズするけど結婚しよう」

「結婚しよう」

「浮気しないで!!!」

「結婚してくれえええええええええええ」

その他、文字に表せない恥ずかしいあまったるい色々。中島健人くんの口からしか聞いたことないようなやつ。わたしはわけがわからない。なんだこれ。

 

そしてそのまま電話は切れた。いや返事をさせろ!?

 

けんとくんのジョンを読み号泣→「わたし結婚してくるわ」と一応三年付き合っている人に血迷ったラインをする→鬼電→俺が悪かった浮気しないで結婚しようと電話越しで泣きながらプロポーズされる→「いや浮気もなにも中島健人くんの話なんだけど……?」(今ここ)

 

わけがわからないまま座っていれば、先程のが本気のプロポーズだとLINEが入る。「……もしかしてこれは、プロポーズなのか?」という間抜けなつぶやきは、たまたま見えたカレンダーの「大安」の文字に消えた。泣くだけ泣いてとにかく本気で結婚するからな、浮気するなよ!!ってこれ、プロポーズなんですね、へえ、へえ…………

 

 

え、わたし、結婚するの?

 

夜中にTwitterをしながら考えた。わたしはどうやら結婚するらしい。嬉しい。だってとても好きだ。正直環境的に無理でもせめてプロポーズだけはって去年くらいから思ってた。あるとないでえらい違いだ。でもわたし酔ってるし、もしかしたらこれは悪い夢かもしれない。ムックが背後から来るかもしれない。

ありがたいフォロワーやたまたま起きていた友人達がとにかく言質を取れ顔を見て聞けと言ってくれたので、翌朝5時、わたしはzoomの約束を取り付けた。向こうは4時半には仕事のために起きていることがわかっていたから、あとはわたしさえ起きればよかった。

 

 

翌朝。つまり今朝。わたしは寝坊した。30分。向こうは律儀に待っていた。ごめん。

にもかかわらずいきなり脅しをかけた。「録画するぞ言質とるぞ」そして彼はつとめて冷静に、わたしの人生の中に閉じ込めておきたい優しい優しい言葉を、口にする。

それでようやく実感した。このご時世があけて、のっぴきならない事情が終わったら、結婚するんだ。

この人が見せてくれた優しい世界で、生きるんだ。

 

余韻に浸りつつ思い出す。危ない、解いておかなければならない誤解があった。いもしない浮気相手のことだ。イマジナリー中島健人くんの話をしなければならない。

 

「え、けんとってあの、なかじまけんと?あれえ、まじ?でもまじで取られると思った、よかった。けんてぃーで!けんてぃーに取られる前にプロポーズした!!イマジナリー健人でよかった!!!」

だいぶまろやかにしたけどこれの500倍うるさいトーンと文字数と圧で彼は叫んだ。うるさい。今更気付いたけど君は動揺すると我妻善逸になるんだね……しまいにはリアリー中島健人を目指すという。知らんがな。リアリー中島健人中島健人だけなんだよ。そもそもイマジナリーもいないんだよ!!菊池風磨さんに怒られるでしょ!!!!!

 

くそデカスケールなとこけんとくんに似てるなあと思ってたけど訂正しようと思う。似てない。うるさい。……むかつくけど、そこがかわいい。ええい認めよう!わたしは鬼滅だとずっと我妻善逸が好きだった!!!!!

 

いよいよ中島健人先生を神と呼ぶ以外の選択肢がなくなってしまった。いや元々神様なんだけど、結婚まで連れてこられてしまった。やばい人と別れられたきっかけも、この人とこうなるきっかけも、プロポーズのきっかけも、全部けんとくんだ。おちゃめじゃないって言うところがおちゃめなけんとくんのおかげで、とんでもない世界にきてしまった。

 

とにかくまあ、中島健人くんにぶん殴られたおかげで、どうやらわたしは結婚するらしい。まさか中島健人さんに触発されるとは思わなかったしなんとなく結婚はするんだろうけどどうせプロポーズなんて当分先だろと思っていたのであまり実感はありませんが、とにかく近い将来結婚するらしい。いいよこっからまた長くなっても。いくらでも待つよここまできたら!仕方ない!好きなんだよ、マジで!