「あの、資格……とりたくて……」
早朝。わたしはびくびくしながら部長を訪ねていた。補助制度を使って資格を取りたいです。ふたつあるんです。はい、はい、ありがとうございます。え?理由?理由……理由は……理由は………………
言えない。言えるはずがない。
萩谷慧悟さんに一目惚れしたからです!!!なんて。
というわけで萩谷慧悟さんに一目惚れして2つ資格を取ることにしました。つぐみと申します。
先に言っておきますが、これは担降りでもかけもちでもありません。なぜならそれぞれわたしの中で追いかけたい理由が明確に違うからです。神。あなたを学問にしたい。ボスベイビー、でも最強の成人男性。あなたを読み解きたい。結婚。トゥースは挨拶。俺じゃだめか?正恭。
そこに増えてしまっただけです。恋が。だからわけのわからないお気持ち表明ましゅまろは全部相手をしません。道が増えただけ、人生に。
そう、これは紛れもなく恋なのです。豪速球で恋をしてしまいました。
そもそもはフォロワーさんがずっと楽しそうに応援していた7ORDERさんがほうほう、楽しそうだな、安井くんのグループか、ぐらいの気持ちで早一年半。ライブに行きたいと駄々をこねたら連れてってくれました。フォロワーと書いて神と呼ぶ。
それがまあ本当に本当に楽しくて…楽しくて……楽しかったのよ……
だがしかし脆い社畜だったので事前に曲を聴き人を覚え頑張ってきたものの顔と声が一致しないままライブを終えてしまったことが非常に心残りでした。なおかつ楽しすぎて楽しすぎてろくに記憶が残らず、「楽しかった……」しか残らなかったのです。
その中でなんとか絞り出していた感想がこちら。
つぐみ on Twitter: "今日ドラムの音が響いてるの最高だったな……あとサックスよ……あれ天才だべ……" / Twitter
元々バンドが好きなので、歌って踊るバンドがハマらないはずがなく、中でもドラムの音がやけに印象に残っていました。阿部顕嵐さんかっこよかったな。安井くんやっぱすごいんだな。この人たちシンプルに話が上手いな。それであの、ドラム、ドラムの人、音が綺麗だった。ドラムの人、かっこよかった。歌がうまかった、気がする。わかんない、わかんないけど。ドラムの人、かっこよかった。
あのドラムの人は、誰なんだ……?
「ドラムの人」が知りたかったのです。あんなに大胆に、でも繊細な音を響かせる貴方はどこの誰なんだ?あなたの名前を知りたいのです。
というわけでライブの翌日にはもうファンクラブに入っていました。我ながら仕事が早すぎる。
何から手をつけていいかわからなかったので、とりあえずフォロワーの推しの誕生日の動画を見ました。
「……なんか化石渡しとる人いる」
1ヶ月かけて勉強しましたがなんやかんやこの動画が忘れられず、違う意味で覚えてしまいました。長妻怜央さん。すげえ人。阿部顕嵐さんが化石を持ってると思う長妻さん、初見にはわけわからなすぎてすごかった。あと別の動画のあの帽子、なに!?令和に生まれたドラえもんなの!?あの帽子藤子プロ作品でしか見たことないんだけど!?でもなんかめちゃくちゃドラゴンボール好きなんだ!?作画のバグ!?藤子プロから出てきたベジータだ!
つぐみ on Twitter: "阿部顕嵐さんが化石を持ってると思う長妻さんわけわかんなくて最高に面白かった、彼にとって阿部顕嵐さんってなんなんだろうか(笑)" / Twitter
そこから徐々に始まった履修計画は、怒涛の速さで進んでいきました。少しずつ顔と名前を覚えていきます。2週間くらいで大体の顔と名前がようやく一致してきたのです。
安井くん。やっぱり安井くんはすごい。
真田さん。その健気さにおばあちゃんは胸を打たれたよ……
諸星さん。なんでこの人ビールのCMしてないんだろう。
森田さん。その声を文化財に指定したいよ。
阿部顕嵐さん。この人よく誘拐されなかったな。
長妻さん。生きる藤子プロ。
そしてやっとわかった。貴方萩谷さんって言うのね!!!!!!!
あなたが萩谷慧悟さんですね!!!!!!!
つぐみ on Twitter: "やーばい萩谷さんのこと好きだな" / Twitter
つぐみ on Twitter: "色々あっちこっちしたけど次のライブは萩谷さん定点になりたい……!!!!!" / Twitter
ところがどっこい、つぐみという人間はひねくれていた。好きになってしまうと逃げてしまうのである。好きだと認めるまでに50回くらい遠回りをするのである。心身のバグを起こしてしまうのである。
ので、
つぐみ on Twitter: "めちゃくちゃ悩みに悩んでついに萩谷さんをフォローした。お察しのとおり、好きなのである。" / Twitter
ただフォローをするだけで何日もかかってしまいました。
そしてこの日、またもフォロワーにより革命が起こります。イングリッシュマフィン事変です。
つぐみ on Twitter: "助けてくれイングリッシュマフィンを買った" / Twitter
つぐみ on Twitter: "イングリッシュマフィン………………" / Twitter
つぐみ on Twitter: "どうすんだよイングリッシュマフィン!!!!!" / Twitter
つぐみ on Twitter: "好きを自覚した日に爆発してイングリッシュマフィン買ってるのわけわからんな……" / Twitter
そう、わたしは萩谷さんのイングリッシュマフィンに一目惚れしたのです。一耳惚れかもしれない。わかんないけど。
萩谷慧悟さんの声で作る「ソーセージエッグマフィン」|ボイレピ♪ 朝ごはん #36 - YouTube
萩谷慧悟さんの声で作る「ソーセージエッグマフィン」、フォロワーが耳からあやめようと教えてくれたこれがわたしを狂わせた。見事にやられたのだ。
休日の朝にぴったりの“聴くレシピ”をお届けします。 「おうちカフェ」をテーマに、おうちで簡単に作れるカフェ風の朝ごはんレシピを料理家 黄川田としえさんに教えていただきます。 第36回は7人組グループ・7ORDERの萩谷慧悟さんをナビゲーターに迎えて、「ソーセージエッグマフィン」を作ります。 料理の音は「しあわせの音」。 休日の朝、萩谷さんの爽やかな声に癒されながら、ぜひ一緒に作ってみてください。
癒されるどころか狂ったんだが!?
この動画で萩谷さんは言う。「イングリッシュマフィン」と。彼はいい声で言うのだ。「イングリッシュマフィン」と。
そしておたくは狂った。耳からイングリッシュマフィンが離れなくなった。イングリッシュマフィン、ああイングリッシュマフィン。万年ご飯党だから気にしたことがなかった食べ物、イングリッシュマフィン。でもイングリッシュマフィンが食べたい。だって萩谷さんはめちゃくちゃおいしそうにイングリッシュマフィンというのだ。
「イングリッシュマフィンが食べたいです」
コシヒカリは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐のおたくを除かなければならぬと決意した。コシヒカリには恋がわからぬ。コシヒカリは、 おたくによって昨年栽培された立派な白米である。精米され、炊飯器と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
コシヒカリは今日も米びつから台所に降り立ち、明日の朝食べられるはずだった。準備をしているうちにコシヒカリは、台所の様子を怪しく思った。いつもより仲間が少ない。もう既に日も落ちて、台所の暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、家全体が、やけに寂しい。のんきなコシヒカリも、だんだん不安になって来た。
路で逢った夜勤明けの母をつかまえて、何かあったのか、昨日台所に来たときは、夜でも炊飯器が歌をうたって、中身は五合ほどであったはずだが、と質問した。夜勤明けの母は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて父に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。父は答えなかった。コシヒカリは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。父は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「姉が、明日の弁当にイングリッシュマフィンを食べようとしています 。」
「なぜ食すのだ。」
「恋心を抱いている、というのですが、誰もそんな、パンに恋心を持っては居りませぬ。」
「なにに惹かれてしまったのか。」
「はい、はじめはドラムに。それから、ダイビングをなさるお姿に。それから、 歌声に。それから、サバゲーのお姿に。それから、鳥を愛でる姿に。それから、なにより、真摯で実直なお人柄に。」
「おどろいた。やつは乱心か。」
「はい、乱心でございます。研究する事が出来ぬ、というのです。 この度は、珍しく学問という方向に頭がいかない、とにかくなんだかこう、新入生が先輩を好きになってしまうあの感覚だ、と話して居ります。春の風に心を攫われてしまったようです。きょうは、春風にのってイングリッシュマフィンを探しに行こうとしています。」
聞いて、コシヒカリは激怒した。
「あきれたやつだ。生かして置けぬ。」
だがしかし、コシヒカリの健闘虚しく気付けば彼女はスーパーでイングリッシュマフィンを購入し、後悔していた。「イングリッシュマフィン」の声が好きすぎて、イングリッシュマフィンだけしか買わなかったのである。なんと馬鹿な人間だろうか。コシヒカリが炊飯スイッチを押される頃、イングリッシュマフィンはコロッケにより救われることが決まった。
これが、のちに語り継がれるイングリッシュマフィン事変である。
というわけで、なんというか、イングリッシュマフィンを買ったことで萩谷さんを好きだと自覚してしまったわけです。どこに人間が狂うかはわかりません。恐ろしいことですね。
事変の中でも書きましたが、萩谷さんに対して「研究したい」という気持ちが一切出てこないのは自分でも戸惑っています。なんというか、全部ぶっとばしてただ好きなんです。人間に対してこのような感情をあまり抱いたことがなくて、どうしていいかわかりません。好きなんです。好きなんだよな……困ってしまう。わたしのおたくのアイデンティティは読み解くこと、研究すること、学問にしたいと思える人が自然と自担になっていたのですが、萩谷さんに対してはなんというか、春の桜が咲いたことに対して安心するというか、萩谷さんのような人がいてくれる安心感というか、そんな気持ちなんです。
それから、萩谷さんって「長生きして」って願わなくても絶対に生きていてくれそうじゃないですか……生きていくことに対して心配がいらない。それって、今の私にはすごく救いなんですよね。待たなくていいんだもの。散々書いてきたので割愛しますが、生きていて、って願わなくても、きっと萩谷さんは地球のどこかで、わたしだけが一方的に歳をとらなくても、生きていてくれる。それがどれだけ救いで、わたしだけが時がすすまないことが、希望なんだよなあ。どこかで必ず生きていてくれることが、救いなんですよね。
そして安直なおたくは最近停滞気味だった仕事も幅を持たせようと資格を取ることにチャレンジすることにしました。萩谷さん見てたら場所があるのにやらないのもったいないなって思ったんだよな。
そんなわけで春風にのって、恋をはじめてしまいました。どんな色になるかはわかりませんが、ゆるゆると、いったりきたりしながら生きていきたいなあと思います。
とりあえずまずは行くぜ、武蔵野。