「ねえ、今年も司法試験受けるならさ、転職しない?」
それが言えないまま2年経ったらしい。最近ずっと友達に相談しているくらいには疲れた。『わたしの彼氏さあ、いつまで経っても司法試験の勉強真剣にやらないの、でも楽しそうだから……言えなくて…………』って、そろそろ言い飽きた。
噂の彼は今、執行官室という場所で事務員として働いている。毎日多岐に渡る業務をこなす生活は本当にたのしそうだ。名前は栗橋祐介。栗林でも若林でもない。『クリハシ』。
数年前まで彼は銀行員として働いていて、弁護士になりたいと言ってやめたのだ。私は止める理由が見当たらなかった。自分も弁護士だし、彼が同じ志を持ってくれたのが嬉しかった。
それから月日は流れ…………3回!!3回も司法試験が終わってる!!!!!3回だよ3回、わかる、難関だもん、わかる。わかるけど!!!!!
なんで転職しないんだよ
お前!!!
ひとまず彼の仕事内容を説明します。執行官が集まる執行官室で、執行事件を執行官たちに分配するのが仕事です。かっこいいですね。それから、電話応対から、経理事務まで全てをこなし、おじさまたちに頼られているって自分で言ってました。好きだけど嫌いだよ、そういう自信家なところ。
お分かりいただけましたでしょうか。
この男、3回おちてるくせに身になるのかならないのかわからない事務仕事をずーっと続けているのです。ねえ、受かる気ある?せめて転職しない?もうちょっと学びに集中できる仕事にしなよ、お金なら出す。生活費も半分ずつじゃなくてもっと貴方が勉強に集中できるようにするから。だから!!
転職しない?????
仕事楽しいのになんでって、いやそうだね、そうだけどさ?!わかる!?貴方が今集中しなきゃいけないのは司法試験なんだよ、事務員じゃなくて。3回司法試験におちてるのに司法試験に集中する気がまるでなさそうなところ、おばかで愛しいけどそうじゃない。ほっとけないけどそうじゃない!!
いい加減気付いてくれ。あなたの学び場はそこじゃないの!!!!! なに真面目に毎日事務員してるの?なにおじさま達に鐘鳴らしてるの!?
貴方はどうしたいの?なんになりたいの?そのままただの事務員でおわるの!?弁護士になりたいんだよね!?そのポケット6法は飾りにしないでよ!!!
と、まあ1話からこんな大変な拗らせ文章を書く羽目になるとは思いませんでした。シッコウ、面白かったんですがストーリーよりなにより司法試験に3回落ちた男を好きになってしまいました……本間快よりタチが悪い男です。なぜなら彼は自分が大人だと理解した上でこれをやっているので……
妙に自信家なドヤ顔、眼鏡、おそらくこいつ今年も落ちるんだろうなと思わせる事務の仕事への情熱、他人にはわからない感情境界線、全部タチ悪くて好き……
このまま行くと毎週栗橋さんを養う女弁護士の概念に支配されてしまう!!!!!ストーリーよりなにより栗橋さんが勉強する気があるか心配になっちゃう!!!!!ポンコツおばか可愛いよ!でもとりあえず、
鐘鳴らす暇あるなら
勉強して!!!!!