私の名前は限界労働者天パのつぐみ。幼馴染で同級生の仮名ナットウコにファミレスに呼び出されて、さっきスパゲッティ食べちゃたんだよなと思いながらメニューを見つめていた。 メニューを見るのに夢中になっていた私は、 背後から近づいてきたもう1人の仲間に気付かなかった。 わたしはその男に隣の席に座られ、気がついたら・・ 宗教勧誘が始まってしまっていた!
『わたしが話をまるで聞いていなく男が無駄に顔がいいなということしか考えていないと奴らにばれたら、 また命を狙われ、周りの人間にも危害が及ぶ』
脳内の阿笠博士の助言で正体を隠すことにしたわたしは、 トウコに今幸せかを聞かれて、とっさに『いや別にそうでもない』と馬鹿正直に答え、 奴らの情報をつかむために、とりあえず運ばれてきたピザを食べることにした。
満腹になっても頭脳は同じ!
なぜか勧誘されがちな社畜!!
信仰は中島健人だけ!!!
ということを脳内で繰り広げていたら、ピザが皿から消えていた。あ、2人も普通に食べたんだなと思いながら、とりあえずそそくさとトイレへ向かう。
さて、ふざけていないで状況を整理しよう。
①うん十年ぶりに一度も連絡とってない同級生から突然ファミレスに誘われる
②怪しいなあと思ったので断る
③仲のよかった友達から『結婚報告がしたいの』と連絡がきて、トントン拍子で会う約束をする
④待ち合わせ場所に行ったらなんか彼女とソイツが並んで座っていて、結婚報告と同時に出会ったきっかけとして宗教勧誘をされる。神様が導いてくれたらしい。変な本を渡された。いらん。
⑤なぜか男がわたしの隣に座って、普通に食事が始まった
で、気味が悪くなってトイレに逃げてきたのだ。頭を抱える。
これまでも何度かブログに書いたようにおかしな勧誘を受けてきた。今までと決定的に違うのは、勧誘相手が知り合いになってしまった酷い事実だけ。
今までは、知らない人だったからこちらも大盤振る舞いしてきた。知らない人だったからだ。もう二度と会わないと、わかっていたから自由にできた。
ところが今回はどうだ。知り合いだ。知り合いどころか友達だ。トウコは中学3年間毎日一緒にいたし、男の方に関しては、もうここまできたら認めたくないけど元彼だ。夏休みだけだったけど。でも修学旅行は3人でまわったし、生徒会の仕事も3人でした。たのしい記憶は山ほどある。
あるから、悲しい。
わけがわからず2人の結婚報告を聞いた。「わたしね、ソイツくんと結婚するの」と言って優しく笑う彼女はたしかに幸せそうだった。でも喜べなかった。だって、ずっと怪しい本がテーブルの上にある。不自然に羽織ったカーディガン。やけに近い、近すぎる2人の距離。
「つーちゃん、今幸せ?」
トウコに聞かれて、わたしは何も答えられなかった。トウコを傷つけるのが怖かったから。
トイレからちらっと席を覗く。2人は無言だ。わたしは思う。今なら逃げられるのではないか?幸い注文はピザとデザートだけだ。デザートは惜しいが、しかし命より惜しくはないのである。
ところがわたしはバカだった。バカであった。座席に車の鍵の入ったポーチをおとしてきたのだ。これでは帰れない。嫌でも一度は席に戻らなくてはならない。
ではどうするか。席に戻る前に根回しをせねばならない。まずはツイートする。Twitterに証拠を残す。
それから、考えた。もし仮にこの後乱闘騒ぎになってもわたしを守ってくれる友達を探した。できれば近場にいて、後々えらいことになってもうまいこと父親(世界面倒くさい親父ランキング第353位)に知られずに終わらせてくれる人。最悪運転してくれる人。そんな都合いい人この世に……いないかも…………と諦めたその瞬間、LINEが鳴った。
『ねえ今日も健人さんかっこいいね』
いた、神様。
義妹ちゃんだ。わたしのようなものを慕い心配してわざわざ新潟の僻地に転職してきた義妹ちゃんがいた。
わたしは彼女にLINEをした。
『とりあえず本間快くんを召喚しなきゃいけない事態なので電話ください』
義妹ちゃんはいい女だ。わたしが本間快という警察官に狂い、人生に困った時にすぐ本間快くんを召喚したがることを知っている。
「なにごとですか!?」
だから、すぐに電話をくれた。わたしは事細かに事態を説明する。義妹ちゃんは言った。「わかりました、今すぐ貴女の本間快くんになります」
45分繋げ、と彼女は言った。45分あれば駆けつけられる。田舎でも都会寄りだからタクシー呼ぶ、任せろ、今すぐ本間快くんになって駆けつけます。
ついたら縦読みするから、とどこまでも本間くんになりきってくれるらしい。ならば、と私も覚悟を決める。
わたしだって、勧誘すればいいんだ。
深呼吸をする。頭を整理しながら考えた。今一番勧誘できるものはなんだ?わたしの神様は誰だ?
ドスン。男を奥に追いやり座る。そして、わたしは耳元でこう囁いた。
『わたしの神様の話、知りたい?』
女をちらっと見れば、ものすごい顔をしている。安心しろ、わたしはう○○らゆ○○ちろうに似た君の旦那を奪う気はないよ。欲しいのは君の旦那の恐怖だけ。
男はわたしを凝視している。意味不明、と顔に書いてある。そうだろうそうだろう、わたしもなんでお前にそんなことを言ってるのかよくわからないよ。
『ケンティーって、言うんだけど』
また耳元で囁き、ちらりとスマホを見せる。あ、まずいとわたしは思う。今の待ち受けふうまくんだった。けんとくんじゃなかった。今のわたしの待ち受け、大名だ……
男はぼそりと呟く。「え、武将?」
まじかよ、コイツ信じたよ。というか声まで○○裕一○みたいなんだね。かっこいいね、声だけね。
『まさか知らないの?』
わたしはまた囁く。もはやなぜ囁いてるかわからない。囁き女将もここまでひどくない。
『この人はね、ケンティーよ。かみさま。』
違います、彼は洗濯大名です。
『わたしの、すべてなのよ。ケンティー。』
いいえ、貴方が見ているのは菊池風磨です。
男は困っていた。「えっと……」と困っていた。幼い頃の顔をしているのが悲しい。
女はと言えば、オロオロしていた。「ひとの、かみさまに、そんな……」と言っている。ここではたと気付いた。そういやあの本の表紙男やん。まさかこのわけわからん宗教、お前の自作なのか!?真実は大名のみぞ知る。
さて私はと言えば、困っていた。ケンティーと囁きながら菊池風磨を見せるこの状況に耐えられなかった。わたしはどちらかと言えばけんとくんとふうまくんがわからなくなる状況を自慢げに語る人間がよくわからないからだ。自担の顔と声を間違えるわけねえだろ!!世界一好きな男だぞ!!!と叫びたくなる人間だからだ。そんなわたしは今禁忌を侵している。自分が憎くてたまらない。
だから、だろうか。
「そういえば、トウコって梅原裕一郎に似てるね!!!」
混乱してわけのわからないことを口走ってしまったのは。ただでさえ磁場が狂っていたのにまた狂う。もはや誰が本物の梅原裕一郎なのかわからない。トウコはどちらかと言うと清少納言みたいな顔なのに。
もう3人とも無言だった。通りかかった店員がすごい顔をしてこちらを見ていた。あの、そういえばデザートまだで、
ピロロン。
間抜けな通知音が鳴る。絶対に義妹ちゃんだと思った。もう全部限界だ。限界だから走り出す。
走って、走って、走って、そして、
「え、」
わたしは、たった10段しかない階段から、落ちた。
鈍い痛みが打ちつけた体に走る。今が人生の走馬灯見れる時かなあと思い目を閉じた。「カス カスカス カス! カスカス!カスカスカスカス、春日!!」なぜか春日がずっと喋っている。嫌すぎるこんな走馬灯!!!!!
目を開けて、なんとかしたくてスマホに手を伸ばす。遠くの方にタクシーが見えた。あ、やっぱり義妹ちゃんきてくれたんだ………………
『寝てるよね(..)話せたら、いいかな♡おやすみ』
LINE、お前かい!!!!!職場のクソジジイ!!!!!!!!!テメェふざけ、あ、
「痛いいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
絶叫は通知音をかきけす。ぼんやりと、通知が見えた。
「た」
「す」
「け」
「る」
というわけで、この後わたしは助けにきてくれた義妹ちゃんにたまたま主治医がいた救急外来にぶん投げられ、折れてますから今年のSexy Zoneのライブにはいけませんと言われたのでした。みなさんも宗教勧誘とシンメの見間違いには気をつけましょう。
おしまい。