君がここで笑うシーンが

いや、答えなんかはいいんだ ただちょっと

拝啓 何も言わずに背負う貴方へ

最近、非常によく聞かれることがある。
「なんで仕事をやめないの?」
「そもそもなんであの夜をやり過ごせたの?」
「なんで仕事続けてられてるの?」

総じて、「貴方は強いね」の意で投げかけられる言葉だ。

それから、これはまあ直接言われてはないんだけど、聞こえてる言葉。

「足手纏いでめんどくさい」
「やめてもらった方がいい」
「扱いに困る」
「じゃあやめたらよくない?」

いつからか、休憩室でご飯を食べることをやめた。怖いからだ。いろんなことがあって気付いたけれど、人間って男女関係なく容赦なく人を罪悪感で塗りつぶせる。
申し訳ないな、って。ごめんなさいって、そんなんわたしが一番思ってるよ。


さて。あの夜の夢ばかり最近みる。疲れる。
この間の夜勤の時、怖かった。あの男がわたしの1人になる時間に起きてきたからだ。泣きそうになって、別のナースコールがなって安堵した。あの男より優先順位の高い人のコール。真っ先に駆けつける必要があるナースコール。半泣きになりながら走った。心底、心底よかったと思った。
むりやり仕事を続けているけどわりとガタはきている。オムツ交換の時に手が震えるようになった。入浴介助の後、息苦しさで動けなくなった。できないやつだと思われるのが怖くて我慢しているけれど、そろそろそれも限界かもしれない。でも、でも。職場で相談するのが怖い。怖いのだ。足手纏いの視線が、つらい。
病院に行きたいのに、予約が怖くてずっと出来ずにいる。何が怖いかわからない。でもずっと怖い。

あの夜、わたしは気付いたらパソコンの前に座り込んでいた。どうやって息をしたらいいかわからなかった。時刻だけは鮮明に覚えている。3時30分。
震える手で起きたことを記載した。のちにこれを心底後悔して、言わなきゃよかった、黙っていたらよかったと泣く羽目になるのだけれど、それもそれで早急に忘れたいことなので、今は振り返るのをやめようと思う。

幸いナースコールのない静かな時間で、逆にそれが怖くて、傍にあったスマホに手を伸ばした。夜勤中は個人のスマホを使ってもいいことになっているから、イヤホンを繋いでシャッフルボタンを押す。

好きなアイドルの歌が聴けない自分に、愕然とした。

汚してしまう、と思った。あらゆる劣等感が、あれを境に溢れ出たのがわかった。ごめんなさいと思って泣いた。ごめんなさい、ごめんなさい。
わたしは、貴方達を、汚してしまう。

たぶん、すぐにシャワーを浴びていたら。制服を着替えられていたら。手を洗えていたら。こうはならなかったかもしれない。
どうしたって、手が汚れているような気がした。洗っても洗っても、においがとれない気がした。
「綺麗だね」
あの男の声が過ぎる。あの男は、綺麗だと言って、わたしのすべてを奪ったんだ。あの男は、その言葉で、わたしを、

そう思ったら、自分が大好きなSexy Zoneに抱く「綺麗」という感情も、彼らを汚すためのものなような気がして。

はじめて、好きなアイドルの歌を途中で止めた。

ショックだった。わたしの綺麗は、綺麗じゃない。彼らを好きだった、あの日のままの、愛したままの、ありのままのわたしは、もういないんだ。

人間は悲しみが上回ると泣けないんだと、はじめて知った。


それから先のその夜の記憶は、ない。
どうやって帰ったのかもわからない。


次に覚えているのは、はじめての共感の言葉だった。夜に聴いたか朝に聴いたかわからないけど、その言葉で泣いた記憶だけが残っている。場所の記憶の隅に自分のボールペンがあるから、たぶん職場のデスクで聴いたんだろう。

好きなアイドルの歌を聴けないくせに、歌は聴きたい。
そんなめちゃくちゃな状態で、シャッフルで聴いては飛ばしたり、ぼうっと音だけを聴いたりしていた。言葉が引っかかるのが怖かったんだと思う。そんなことでとか、そんなことおこりえないとか、もっと早く言えとか、そういうのが怖かった。ずっと息苦しかった。誰かに、後ろから絞められているような、そんな苦しさ。


でも、わたしの耳に確かに聞こえた言葉があった。

「わかるよ。」

間違えてラジオをつけたのかと思った。若林さんか?と思って我に返る。少なくとも土曜日ではないことだけは確かだった。なぜなら土曜日ならばあの事故は起こり得ない。土曜日の夜勤のわたしはオードリーに助けてほしくて仮眠の時間を彼らのラジオに被せるからだ。この時間は仮眠室にいる。

ということは、これは、誰かの歌か?

よくわからぬまま矢印を動かした。もう一度、あの言葉が、今度ははっきりと聞こえる。


「わかるよ。でも僕に何かを伝えようとした時点であなたはきっと変わっている」


はじめて、共感してくれた。


手から何かが落ちた。不意に息がしやすくなって気付く。
今、わたしは、何をしていた?足元にうつる包帯と、微かに首元に残る痛みが、答えである。

職場で声を出して泣いたのは、あれがはじめてだった。

 

 

 

 

 

 

さて。話はそれから数ヶ月。NEWS EXPO 静岡公演の時のこと。

わたしはずっと怯えていた。

「男never give upみたいなNEWS」

事前に得ていたNEWS EXPOに関する唯一の情報に、怯えていた。絶対クローバーがくるとわかったからだ。なんでその情報でわかるのかと思われるかもしれないが、わかる。男 never give upが昨年のSexy Zoneのドームでどんな爪痕の残し方をしていたか知りたい人はとりあえず世紀の名盤 ザ・ハイライトを見てほしいが、とにかくまあわかったのだ。そんなのクローバーしかない。

備えていたはずだったが、ダメだった。
体を震わせて泣いて、前後の記憶がない。

「わかるよ。でも僕に何かを伝えようとした時点であなたはきっと変わっている」

泣いて泣いて、立っていられなかった。幸いなことにほぼ目の前でその言葉を聞けたものだから、あの日からのわたしのすべてが赦された気がした。たった一言の「わかるよ。」が、その言葉が、どんなに嬉しくて、どんなに救われるのか。
そして泣きながら、あの日、この曲に救われていた自分を思い出していた。恐ろしいことに、静岡で聴くまですっかりあの夜の、あの歌を聴いたことを忘れていた。生きることを諦めようとしていたあの夜、わたしは確かに救われていた。

ずっと不思議だった。あのブログを書いた日、なんで私は不意に加藤さんの言葉に縋ってブログを書きはじめたのか。忘れていたのに、あの言葉に甘えたくて仕方なかった。

わたしのほしかった物差しは、たった一言の肯定だった。誰かに、あの夜をわかってほしかった。わたしがこの先も、あんなことがあっても続けていいのだと、続けていきたいのだと、わかってほしかった。

わたしの探していたあしたは、ここにちゃんとあった。

 

拝啓 加藤シゲアキ様。わたしは、貴方のくれた「わかるよ」に縋って、今はここに立っている人間です。わたしにとってのとあるラジオは、貴方がくれた言葉です。

いきたくない気持ちを消すのは難しいし、病院の予約はいまだにできていないけれど、でも。貴方の言葉のおかげで、なんとか生きています。誰かの幸せを、もう一度願えるようになりました。

 

どうかどうか、どうか。

明日からの貴方も、幸せでありますよう。