君がここで笑うシーンが

いや、答えなんかはいいんだ ただちょっと

「彼女はキレイだった」を見て退職を決めた話

「あの時、僕は君を守るべきだった」

 

そう言って頭を下げる長谷部さんを見ながらほろほろ泣いた。わたしも、その言葉がほしかった。守ってもらえなくてもいい。そこはあんまり問題じゃなくて、ただ、ただ一言、謝ってほしかった。

 

単刀直入に事実をありのまま話すと、現在進行形で職場でパワハラを受けている。これはまあ、気力があったらそのうちまとめるとして、今日はそのパワハラに関する調査会があった。

ところが、パワハラを訴えてきたのは私に好き勝手に暴言を投げてきた方で、わたしは当初「パワハラをした」側の人間としてそこにいた。私の訴えには証拠がないから調べませんと笑ったくせに、そっちの話は聞くんだ。給料出すからほとぼり冷めるまで休職しろとも言われた。悔しかった。パワハラをした側のアルバイトさんに言わせたらわたしは浅ましくて、言葉が面白くなくて、他人にしっぽをふってばかりで何にもできなくて、仕事が遅くて、わたしに好かれた人は可哀想らしい。被害者ぶるつもりなんか毛頭ないけど、わたしが身を削って録音した音声を聞いてもなお人事の偉い人に「パワハラをさせたあなたが悪い」と言われて、それが本当に本当に悔しかった。日に日に心ばかり削れて、寝れなくなって、わたしの大切なものは色褪せていく。好きなものを好きと口にするのが怖い。全部わたしのせいにしてしまえば楽で、呪いみたいにその人の金切声に縛られて。そんな中で、 今日の彼女はキレイだったをみた。

 

愛ちゃんを説得する長谷部さんを見ていたら、わたしはどうしてあの会社で仕事をしているんだろうという気持ちになってきた。そんな中で冒頭のセリフが出てきて、わたしは泣いた。それだけでよかったんだよなあって。

それだけ。それだけでよかった。たった一言、すまなかったって言われたら。それだけで救われたのに。守ってくれとは言わない。だけどせめて、一言でいいから。わたしのことを、大切だと伝えてほしかった。給料出すから大人しくしてくれなんて、そんな言葉望んでなかった。ただ、ただ一言。すまなかったって、言ってほしかった。

 

物語がすすむうち、わたしは思う。なんでわたしは今の会社にいるんだろう。自分の好きを踏みにじられてまで、ここにいる必要はあるんだろうか。

 

「自分を悪く言うって事は、育てたお父さんやお母さんのことも悪く言ってるのと同じだぞ。自分自身の事を好きでいてくれ。」

 

自分を大切にできないこの場所に、いる意味はあるのだろうか。

 

憧れの職種。やりかけの仕事。他所から押し付けられた繁忙期で、止まったままのプロジェクト。大好きな部署のメンバー。ぶつけられた生卵。怒鳴られる会議室。大好きだった、仕事。

 

「大好きだった」と過去形にしかできないことに気付いた時、もうやめようと思った。もう、だれかの理不尽に押し殺されるのは嫌だ。わたしは、わたしの言葉を大事にできる場所にいたい。わたしだけの気持ちを、大事にしていたい。

 

「仕事、やめる」

 

そう口にして、つぶやいて。そうしたら、世界が急に明るくなった気がした。現在進行形の仕事のことは、この先考えたらいいや。パワハラおばさんのことも、悔しいけど、でもこれは負けて逃げるんじゃない。わたしがわたしらしく生きるための選択だ。

生き抜くための、反撃のビートを鳴らすんだ。

 

やめる。辞めたいじゃなくて、やめる。

下書きのつもりで退職願を書いて、ちょっと泣いた。下書きだから、メガネと玉ねぎの絵を描いた。愛ちゃんが、力をくれたような気がして嬉しくなった。

ありがたく休職はさせてもらうとして、書きかけのまま去るのは嫌だな。そこは上手いことならないかなあ。でも、やめる!ってきめたらすごく楽だな。明日から何言われても、もうやめるからって、そう思える。いやまあ、やられっぱなしは嫌だから、然るべき手段は取らせてもらうけど、それはそれとして。わたしの心をもうあの人に渡したくない。

 

わたしの心は、気持ちは、言葉は。わたしだけのものだ。

 

ありがとう、愛ちゃん。ありがとう、長谷部さん。

2人のおかげで、ちょっとだけ前に進めそうです。課題は山ほどあるし、きっとまた揺らいで、傷ついて、苦しむかもしれないけど、でも。わたしは自分でわたしを守ってあげると決めたから。わたしだけは、わたしの味方でいるって決めたから。わたしの人生のヒロインは、わたしだけなんだ。

 

とりあえず明日、あとちょっとだけ頑張れますように。明日は笑って退勤できますように。2人がくれたたまねぎ一個分の勇気を持って、生きていこうと思うんだ。