君がここで笑うシーンが

いや、答えなんかはいいんだ ただちょっと

そうしてまた、音楽を食べるのだ。ーNEWS『音楽』が紡ぐ文学ー

あまり音楽を聴いて「読む」という感覚に陥ることはないけれど、確かにわたしは『音楽』というアルバムを読んだのだと思う。

このアルバムは、アルバムの醍醐味である「聴き手に与えられた想像という余白」をInterludeが入ることによる起承転結ができることである意味破壊している。しかし、それが逆に広大な余白と余韻を与えていてたまらないのである。

NEWSのアルバムを買ったのははじめてだった。だけど、はじめて買ったNEWSのアルバムがこれでよかった。読むことに飢えていた心を埋めてもらえたからだ。空っぽだったわたしの心は、確かに音楽で満たされた。心地よい満腹感。そして同時に、本を読み終えたあとの爽やかな気持ち。今なら、きっとなんだってできそうだ。

 

さて。満腹感あふれるメニューを、つたない言葉ではあるが紐解いていこうと思う。これを書きおえたあと、わたしはきっと目を閉じるだろう。そうしてまた、音楽を食べるのだ。わたしの内側に、音楽がある限り。

 

 

 「じゃあ、君の食べたことのない『音楽』を教えてあげる」

 

いつだって僕らは待ち焦がれていた

この星が生まれたように

 

浅はかな人間なので再生するなり「いや秒で伏線回収するやん」と声を出してしまった。音楽を知らない星が話すから、あえて余白を入れるその仕事の丁寧さにもう最初から唸ってしまう。

松たか子さんの優しい朗読で既に期待に満ちているのに、始まったTRIADがそれを遥かに超えてくる。なんてったって、

『さんざめく 想いこそ音楽』

この言葉を一曲目で歌える強さ。最初に結論が分かりやすく明示されている論文は素敵だと習ってきたが、間違いなくこのアルバムも素敵なのだ。だって、こんなにも強い答えが、もう見えている。

 

立ち上がれ あゝ
本当の声で 本当の自分(きみ)で
僕はまだ 君もまだ
“負ける意味を知らない”

 

このアルバムには音楽を食べる星が出てくるが、星に言い聞かせるように二曲目が始まる。星はまだ、口をもたない。『音楽を食べる』意味を知らない。先の一曲目がアルバムのはじまりならば、この曲は「星の旅路」の始まりです。

 

夏が過ぎて
夢は覚めて
思い通りじゃなくても
遠回りして
口笛吹いて
僕らはまた歩いていける

 

なるほど、カノンによればどうやら星が生まれたのは夏らしい。しかも、誰かの生まれ変わりのようで。人が亡くなると星になるというけれど、きっとこの星は「生き方を忘れ途方にくれる 大事なものもわからなくなってく」そんな日々の中で生まれたのではなかろうか。ほんのり香る星の過去に、NEWSの面影が重なるような気がした。「夏が過ぎて
夢は覚めて 思い通りじゃなくても 遠回りして
口笛吹いて僕らはまた歩いていける」、星もそう思えるようにと願いながら、物語はリズムの章へとうつっていく。

 

「これがリズムってやつさ。

そう、リズムはどこにだってある」

 

踊りだせ
Hit on me
朝まで
朧げな瞳
揺らそう
移り気な
他人のフリして
歪んだ世界も
溶かして twilight

 

チンチャうまっか Yeah
危なげな 君の瞳は
恋の味

 

 

ご希望の行先へ 世界何周でも
しっかりつかまって 離さないで

 

また秒で伏線回収していくNEWS…と唸りながら聴いた、リズムの章。リズムを教わった星に与えられた、ポリリズムという最高のごちそう!ご馳走様はまだまだ遠くて、恋の味というデザートまで。そしてそれは、いつまでも終わらぬ夜に変わっていく。楽しい食事は終わるなと願いながらもあっというまに終わるけれど、その感覚に近い気がした。

 

それらの線と線の間で、

多くの星が一斉に瞬く。

まるで楽器のようだった。

口のない星の代わりに、

男は口笛でそのメロディを鳴らしてみせた。

 

 

Melody-Interlude-のあとのビューティフル。もうここはとにかく聴いてほしい。わたしの言葉はいいから聴いてほしいのだ。

紡がれる口笛。あまりにも綺麗すぎていつも泣きたくなる。本当に綺麗なのだ。まさしく、ビューティフルなのである。新しい本読んでる感じに近いと感じた理由はたぶんメロディーの章にあった。この辺に来るともはや良すぎてずるいのフェーズに入りはじめてくる。本当にずるいのだ。綺麗で、いつもそばできみの心に寄りそえたらという、覚悟を感じて、ずるいのだ。

 

 

ピンク色の月を眺める星に、

男は突然、問題を出した。

 

ビューティフルに感動し、移ろう月の美しさを感じていたらまーた秒で伏線回収しおった。このアルバムは幾つの陳腐な推理小説を実力で倒しているんだろう。

ここまでたくさんの音楽を食べてもなお飢える読者と星に、男は言う。リズムはひとつでは成立しない。

 

そんな言葉を予告編にして、次の章が始まった。

 

鳴り響け heartbeat
いつまでも踊ろう
遠く離れていても
途切れることのない HEART-mony

 

 

まさにこの曲はリズムを奏でている。星の知らない集合体。無知という負けの意味を知る星を包むのは、一羽の鳥だった。

 

飛び方忘れ 羽根をたたんで
こころの鳥は空を見上げる
息をひそめ 何を待つ?
また別れを知って
それでも明日へ
理想を掲げ、傷を背負っていく
もう一度飛ぶ、夢を見て

 

“大丈夫”と歌っている

 

 

これはわたしの勝手な考えなのだが、たぶんこのアルバムの主役はこの曲だ。この曲は生きていた時の星を諭し、そうしてまた、もう一度夢を見ることを許している。この曲で負けを知り一度は負け犬として星になった誰かは、「大丈夫」だとまた飛び立つ勇気をもらえるのだ。星も、鳥も。空へ向かって、飛び出していく。

 

男と出会った夜は、星が再び飛び立つ前日譚なのだろう。

 

駄目だ 駄目なんだ そんな唄じゃない
探しているのは もっとまっすぐで
棒切れみたいな 唄がいいんだ
地面にささって 目印になる
疲れた誰かの 杖になる唄

 

カナリヤが星の星になるまでの歌ならば、この曲は男が音楽を知るまでの歌なのだろう。男が星に音楽を教えるまでの日々は、友との日々だった。

ところでやけに金八先生というか、ちょっと暴力的なまでに自分を鼓舞する歌だなと思って聴いていたら作詞が本当に武田鉄矢で驚いた。さすが武田鉄矢、「逃げてもぼくに君がいるから 弱い君が必要なんです」とアイドルに歌わせても許される力がある。

 

 

そして、星は叫んだ。

口はいつのまにか生まれていた。

 

それぞれの過去を経て、ついに星に口が生まれる。星は不協和音に触れてしまい、叫ぶのだ。

 

We're going higher 強靭き願いが
時代の火蓋を切っていく 何度も

 

離れないで 手を握って
運命を超えて ゼロからのrebornを
命なんて くれてしまえ
何度でも土を払って立ち上がれ
変わらない愛を君へ
Tighten up my soul 絆のリボン
 

…この人たちこのアルバムの中でいくつ伏線をはり回収していくんだろう。もはや怖い。そして腹が立ってくる。あまりに綺麗で。

ここも黙って聴いてほしい。わたしははじめてここを聴いた時あまりの強さに泣きそうになってしまった。NEWSの音楽は強い。強いのだ。「変わらない愛を君へ」届けるために、彼らは歌い続けるのだろう。

 

 

2人の間を強い風が吹き抜け、やがて光の射す方へと流れていった。

 

星と男の物語は、ついに夜明けとともに終わりを迎える。

 

愛を 愛を
愛を謳おう
歩いて いこう
風の呼ぶ方へ
救いはある
恐れすてて
叶うため生まれた未来だ

 

男はこの先も、風に呼ばれるがまま歩くのだろう。

 

光よ
願いを
唄え
夜明けの中
変わらない愛を
君へ贈る

 

星は歌い続けるのだ。星の生まれてはじめての自分のために口にした言葉は、男との約束だった。

 

「これからも歌い続ける。

僕の内側に、音楽がある限り。」

 

 

音楽がある限り、星の、NEWSの、旅は続く。